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キッチンいっぱいに広がった、母から娘二人に引き継がれた『魔法のカレー』の匂い。それを今、私が引き継いでいるのかと思うと少しだけ魔法使いになった気分だ。
「せっかくだし、少しカレー食べていかない? あと咲ちゃん一人暮らしなんだし、タッパーに入れて持って帰ったらいいわよ」
「えっ嬉しい! この良い匂い嗅いでたら、お腹すいてきちゃった。おやつ時だし軽く食べていこうかな」
チューリップが飾られているダイニングテーブルに、少し小盛りのカレーライスが二つ。「いただきます」と手を合わせて、スプーンで一口すくって口に含む。
途端に頭のてっぺんから足先まで稲妻が走ったような衝撃を受け、様々な感情や思い出が頭の中を駆け巡る。
母がカレーライスを作っている後ろ姿、家族四人で笑いながらカレーライスを食べている光景――そして、この味の懐かしさに溺れて目から涙が溢れ出る。
「……あぁ。この味……この味にずっと会いたかったの。お母さんのこの味がどうしても忘れられなくて。もう一度、どうしても食べたくなっちゃって」
スプーンを皿に置いて、止めどなく零れ落ちる涙を拭う。差し出されたティッシュもぼやけている視界でテーブルの向かい側に目を向けると、叔母の目にも大粒の涙が浮かんで見えた。
「姉さん、なんで事故なんかに……なんで急にいなくなっちゃったんだろうね」
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