第十三章:さくら

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ーside 亮介ー  ソロ活動を始めた。codeの中でも比較的地味な俺は、特にドラマや映画のオファーを貰えるわけでもなく、事務所からオーディションの話を次々通して貰えるわけでもなく、バラエティへの誘いも特別ない。よくメンバーやスタッフ、事務所の先輩方から「お前は芸能人オーラが足りない」と指摘を受ける。  確かにそうだ。認めよう。  オーラがあったなら電車通勤なんか出来るわけが無い。なるほど、と納得するはいいが、果たしてそのオーラどうやって手に入れればいいのか。残念ながら未だ謎だ。  業界に足を突っ込んだのは十五歳の時。憧れのアイドルがいた。もっともその人は、俺が事務所に入った時には活動を休止していたのだが、それでも彼のようなカリスマに憧れてアイドルを目指した。  codeとしてデビューした翌年、彼は突如、事務所に舞い戻った。初めて見る彼に興奮し、その時自分が何を喋ったのか、まったく思い出せない。ただ、半端じゃないオーラに目眩しそうだったことだけは覚えている。  目指すべきお手本がデビュー後に帰ってきたのは正直ついていない。もちろん、事務所には他にもスーパースターが数多いるけど、やっぱり俺にとってのカリスマは彼だけだった。  十七歳でデビューした俺は、割と早い出世だったといえるだろう。研修期間約二年というのは、事務所内でも俺を含めたたった二人だけしか存在しない。社長に見込まれデビュー出来たことは本当に有難い。有難いことは有難いのだが、社長はきっと見込み違いだったんだ。  俺の芸能人オーラは、一向に磨かれない。  そこで、ツアーも終わり、特に舞台をするでもなく、番組にゲストとして出してもらえるでもない俺は自ら社長に頭を下げ、ソロ活動をさせてもらうことにした。  マネージャーに相談した時、「どうかなぁ~」なんて言われたけど、社長は案外すんなりそれを承諾してくれた。え、そんな軽くていいの?とこちらが驚かされたくらいだ。  とまぁそんな具合で、俺は加藤亮介として、初めてのソロCDを出すことになった。  有難いことに世間はそれなりに注目してくれた。  いつも五人で一緒に居るのが当たり前だった俺からしてみれば、一人で挑む歌番組や雑誌の取材は新鮮で、みんなが居ない分、何か物足りない気もしたけど、充実感は半端なかった。  正直、そうでないと困ったんだ。  比呂人と別れたから。
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