君を好きだと言えば良かった。

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 *** 「んぐっ……んぐ、ぬぐ、ごくっ……!」  私は喉を鳴らしてペットボトルの水を飲んでいた。北城君が、飲料水を見つけてきて私に分けてくれたのである。なんでも、ここからさほど遠くない民家に結構な量の食料があったということらしい。 「長期保存用のパンとか缶詰とかも見つけてありますよ。何か食べます?」 「……食べる。ごめんね、君が見つけたのに」 「いいですいいです。気にしないでください。まだたくさんありますから」 「ほんと、ごめん」  こんな状況でも、彼は冷静さを失っていないようだった。中学校時代。私たちの学校には女子サッカー部がなく、私は彼が所属するサッカー部のマネージャーをしていたのである。明朗快活な性格と可愛らしい見た目に反して、えげつない作戦を取る指揮官。北城大河という少年は、中学の頃からそう周辺の学校に評されて恐れられる人物だった。本人のスキルも高いが、なんといっても仲間の能力を生かすのが抜群に上手いのである。氷の指揮官、冷徹なミッドフィールダー、フィールドの魔術師。――全国区のサッカー部を持つ高校からいくつもスカウトが来ていたのに、全部断ったという意味でも有名だった。  理由は“私と同じ高校に行きたいから!”だと本人は笑って話していたが――果たしてどこまで本当だったのやら。 「正直、今でも現実感なくて」  水とパンを食べたら、だいぶ体の震えは止まった。少なくとも、北城君はゲームに乗って私を殺すつもりはないようだ。もしその気なら、最初に声なんかかけないで不意打ちしていればよかっただけの話なのだから。 「本当に、殺し合いなんてさせるつもりなのかな、あの人達は」 「わかりません。でも……松田先輩が撃ち殺されたのは事実です。逆らったら俺達はみんな殺されるんだと思います」 「……だよね」  松田先輩、というのはハチの巣になった女子サッカー部のキャプテンのことだ。私はぎゅっと膝を抱えて座り込む。 「情けないよ。私、二年生なのにさ。後輩の子たちを助けにいくこともできないで、ずっとここでじっとして震えてた。ひょっとしたらみんなで力を合わせれば、あのクソ大人たちをぶっ飛ばすこともできるかもしれないのに」  その結果、北城君に見つかって施しを受けている状態。中学の頃からの友達とはいえ、なんともみっともない話である。ところが。 「いや、多分それ、正解です」  北城君は渋い顔で言ったのだった。
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