4

1/1
19人が本棚に入れています
本棚に追加
/13ページ

4

 その夜晃一は、十一時過ぎにほろ酔いで帰宅した。披露宴の余興の打ち合わせで、同僚数人と居酒屋に寄ったという。口論になった。わかっていれば夕飯は作らなかった。連絡がないことと、家計の苦しさがわかってないことにも腹が立った。言い争う声で起きたのか、美優が泣きながらリビングに入ってきたため、喧嘩は中断した。 「今日はみゆと寝ます」  敬語は嫌味だなと思いつつも、冷たく言い放った。  美優を寝かしつけ、美春はスマホを開いた。晃一の帰宅を待っている間にイライラして、『トキメキメール』という出会い系に登録していた。ほんの遊び心だ。名前は『ハルミ』にして年齢は正直に三十代にした。  マイページのメッセージボックスの赤い丸に「4」と出ている。メッセージボックスを開く。 『セフレ募集中。馬なみにデカイですww』 『愛人月十万。週一でエッチできる人希望』 『六十代だけど自信あります。三十代までのグラマーな女性希望』  どれもあからさまだ。まあ、エッチ目的のサイトだしと思っていると、一通のメッセージに目が止まった。 『女性経験あまりありません。二十四歳の会社員です。お姉さん希望します。ハルヒコ』  欲望()き出しのメッセージの中で、光るものがあった。ハルヒコのプロフィールをクリックする。大学までラグビーをやっていて、彼女いない歴二十四年。彼女ができる前にエッチのスキルを上げたいです。教えてくれる人いませんか?  元ラガーマンのハルヒコ君。敬語から礼儀正しい日焼けしたスポーツマンの絵が浮かぶ。筋肉質なのだろうか、興味が湧いた。住まいも都内で近そうだった。  子ども部屋からリビングに移動した美春は、冷蔵庫の発泡酒を手に取り、椅子に腰を下ろすとぐびぐび飲んだ。晃一には内緒だが、あとで買い足しておけばいい。酒に弱いからすぐに首から上が熱くなった。じっとスマホを見つめ、右手の親指を動かす。 『ハルヒコさん、こんばんは。三十代のハルミです。おばさんでも大丈夫ですか? 会うだけあってみませんか?』  自分をおばさんとは思っていないが、若い子に引け目を感じてつい書いた。おばさんを消して、スタイルは良い方だと思います、に変えた。何度か読み返すも、しかし送信をためらう。迷いを流すように発泡酒を飲み干す。メールを送るくらい浮気じゃない。酒の力で気が大きくなった美春は、送信ボタンをタップした。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!