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 コンビニのA T Mで三社の支払いを済ませ、信楽美春(しがらきみはる)は胸のなかでひと息ついた。月末は毎日支払いに追われ、朝から気が()く。残りの二社はコンビニ返済ができない。通称サラ金ビルのA T Mで振り込む必要があるが、期限はもう少し先だ。ほんのすこし気が楽になる。  美春は商店街のコーヒーチェーンに足を運び、二百五十円のアイスコーヒーを買って、狭いカウンター席に腰を落ち着けた。ガムシロとミルクを入れアイスオレにすると、グラスの3分の1ほどをストローで一息にすすった。ミルクで中和された苦味と甘味が、パートの疲れを(いや)してくれる気がした。  スマホの時計に目を落とす。四時二十分。 『すこし遅くなるけど宿題やってまっててね』  娘の美優(みゆ)にメッセージを送ると、すみっこぐらしの笑顔のスタンプが返ってきた。  小学校三年生になり六時間授業が増えたおかげで、パートの時間を週に三時間増やせたが焼石に水だった。週に三千三百円、月に一万三千円ていど。二百五十円のアイスコーヒーも贅沢品だ。スタバで一杯七百円もするフラペチーノを飲んでいたのが、遥か昔のように思えた。  スマホでお気に入りの動画を見ていると、マッチングアプリの広告が始まった。異様に黒目の大きい若い女の子がサービス名を連呼している。一秒に五組みがマッチング! 本当かしらと思うも、最近の若いカップルは全部こんなアプリで知り合ったのかしらとも思える。友達の紹介や、せめて合コンじゃないと不安じゃないのかしら。ぼおっと考えていると「カラン」とグラスが鳴り我に返った。ミルクが下に沈んで上の方が不味そうな上澄みになっている。美春はストローでかき回して、薄くなった液体を氷が見えるまで吸いつくし、重い腰を上げた。
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