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自宅に戻ってもしばらく、美春は上の空だった。まだ身体の中にハルヒコを感じていた。
ハルヒコは二万円をくれた。断ったが押し切られた。わずか二時間でパートの二日分を稼いだ。夫への後ろめたさはあったが、不思議なことに罪の意識は薄かった。
二週間後もハルヒコと会った。その日はパートを早めに切り上げて、ハルヒコとの時間に充てた。
美春がそれとなく、お金に困っているとこぼすと、ハルヒコはラグビー部時代の友達を紹介してくれた。友達のトモキも好青年で、ハルヒコよりは細マッチョだったが、行為は激しかった。
二人と月に二回づつ会うのが定例のようになり、毎月ちょうど八万円の臨時収入を稼げるようになった。もっと相手を増やせばさらに楽に稼げるとも思ったが、やはり見知らぬ相手は怖い。あの二人だけにしておこうと、心に決めた。
そうしたある日、パート先のスーパーで社員の女性が一人退職した。店長と不倫しているんじゃないかとの噂があったが、真相はわからない。
「私このまえ店長に呼ばれてさ、内緒だよ」
休憩中のバックヤードで、同僚の和田佳代子が顔を寄せてきた。
「え、なにか言われたんですか?」
「うん、悪いはなしじゃなくって、チーフの後任として正社員にどうかって」
「えー、すごいじゃないですか。やるんですか?」
和田が首を横に振る。
「保留にしてもらった。主人にも相談しないとあれだし、フルタイムはねえ……お金は良くなるから悩みどこね」
和田によれば、何人かのパートに内密で打診をしているようだった。
自分には声がかかっていない。評価されていないのかと少し不本意だったが、そもそも正社員でやる気もないしと割り切った。
二人との関係は、三ヶ月目に入っていた。お金の不安が減って、気持ちが明るくなっていた。
ラブホテルの前でハルヒコと別れて、新宿駅に向かっていると、歌舞伎町のアーケードに差しかかったあたりで、「あんた、ハルミね?」と、後ろから声をかけられた。聴きなれない女の声だった。
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