卵を割るように

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(あ、またあの犬)  こっちに向かって歩いてくる、真っ黒なラブラドールレトリバーと五十代くらいのおばさん。  走りながら、私は遊歩道の端に移動した。 (撫でたいな)  そう思うけど、今まで通り無言ですれ違う。  けがをしているのか、犬は少し変わったリズムで歩いている。  白いキャップにベージュのパンツのおばさんは、近くで見ると目つきが悪くて、ちょっと怖い感じ。けど、あんなつやつやの毛並みになるまで犬を手入れしてる飼い主さんだから、悪い人じゃないんだろう。  十月になったけど、気温はまだ全然夏だ。  ゆっくり走りながら、私はにじんできた汗を手の甲で拭う。中学の頃から履いてるスニーカーのつま先が地味に痛いのは、無視。  最近、二三日置きで、決まった時間にこの遊歩道をランニングしている。  下見だ。犯行現場の。  こんなときも真面目な自分が、ちょっとウケる。
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