魔王専属秘書はやり直したい

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ゲルテは呆れたようにため息を小さくつき、シュッと大きな盾を出現させた。 盾はビシッビシッと音を立てながら闇の魔法を簡単に防いでいる。ゲルテも余裕の表情だ。 「おい、ラナゲイル。こんなものだったのか?やるならもっと力を見せてみよ!」 ゲルテが挑発するかのように言ってきた。 だが、こうなることなんて分かっていた。 ゲルテの戦法は長年見てきたから分かる。 だから、騙しが必要。 「私も、そんなに甘くはありません」 暗器。 ラナは闇の魔法を放った直後に、死角から相手の魔法耐性を大幅に下げる魔法をかけた闇の矢を飛ばしておいたのだ。 ゲルテが闇の魔法を全部防ぎきって盾を降ろした瞬間、頭上に向かって音速で暗器が飛んで、矢が突き刺さり────── はしなかった。 ゲルテはまるでそれを読んでいたかのようにバッと振り返り、矢を握り潰した。 「お前が小癪な戦法をするのは想定済みだ」 そう、ここまではラナも想定通り。 ゲルテが振り返った瞬間に駆け出し、走りながら漆黒の剣を生成させ、ゲルテに斬りかかった。 本来、今のように3つ同時に能力を発動することは非常に難しい。 だが、ラナには可能だ。これでこそ魔王専属秘書というだけある。 大きく振りかぶり、飛躍しながら漆黒の剣がゲルテの首に来たところで──── ラナは掴まれた。 「!?」 これで決めると思っていたラナは驚き、身動きがとれなくなってしまった。 どうやらゲルテは魔法で生み出した不気味な手でラナを掴んだみたいだ。 ゲルテは興味深そうに剣を奪い、いよいよラナは抵抗出来なくなった。 「少しは成長したかと思っていたが………違ったようだ。全てにおいてまだ甘い」 「……………っ」 やはりこうなるのか。 自分じゃ、ゲルテには到底及ばない。 騙しに騙しを重ねても、ゲルテには剣が届かなかった。 ラナはギッとゲルテを睨んでいるが、全身冷や汗がふきだしている。 「時に、ラナゲイル。何故お前は魔王城を抜け出したのだ?」 ゲルテはラナを掴んだまま酷く冷たい声で問う。ラナは言わないつもりだったが、このゲルテを前にしてそんなことは出来ない。ラナは少し黙った後、小さく口を開いた。 「…………私は、普通の人間として、生きてみたかったのです」 ラナは言った後、はっとして口を閉じた。 なんてことを口走ってしまったのだろう。 「普通の人間として…………だと?笑えない冗談はよせ。」 ゲルテは少し顔をしかめてラナを掴んでいる魔法の手にギュッと力を込めた。 ラナの体が締め付けられる。 「うっ……………!」 「いいか、お前は普通の人間にはなれない、私の元に仕えなければならないのだ。 今戻ると決めたら軽い罰で済ませてやる。」 ゲルテが苛立ったように喋る。そしてラナの体は締め付けられていった。 戻ると言え、と言われているような感じがした。 「ぐっ……………で、ですが」 たが、魔王軍に寝返るわけにはいかない。 ラナが少しでも言葉で抵抗しようと口を開いた瞬間、ゲルテの顔が物凄い形相になった。 全身の毛という毛が震え立つような恐ろしさと恐怖を感じる。
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