魔王専属秘書はやり直したい

15/21
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
「動くな、抵抗するな、喋るな、何もするな。いいか、お前ごときが私に物申すな。 何のためにお前を拾ってやったと思っている」 今までないくらいの声で、ゲルテが言った。 表情や雰囲気だけで人を殺せそうだ。 そうだ。元々魔王専属秘書なんてやる気はなかったのだ。ただ、勝手に普通の少女に才能を見込んで拾われただけ。 ラナは元々、ラリエット王国の外れにある町に住んでいた。その町が魔王軍によって支配されたところを運よく生き残った、ただそれだけ。 本当だったら普通の生活をしていたはずなのに。ゲルテに見つからなければ。 そしてラナがどんなに頑張っても、ゲルテは労いの言葉さえくれない。 全部ふまえて、本当に嫌になる。 「ラナゲイル、戻ると、言え。はいと言え。私に従え。抵抗するのなら、今度こそお前を殺す」 嫌だ、あんな所に戻りたくなんてない。 あんな、情のない城なんかに。 でも、死にたくない─────── まだ、まだ私は、魔王専属秘書だった頃の償いをしてないのに──── 抵抗したところで、勝てるわけがない。 相手はあの、王国中を支配している魔王なのだから。 もう、諦めて戻ってしまおうか。 普通の人として生きたかったけど、自分でも善人になれないことなど分かっている。 そう、なれないのだ。 今ここで死ぬくらいなら、魔王軍の影に潜んで、何もしない、何も考えないで生きる方がましなのかもしれない。 ラナは、全て諦めたかのように考えるのをやめ、締められて苦しい中、静かに口を開いた。 「……………は、い…………魔王さ」 ビシュンッ、ビシュンッ、ビシュンッ 「ぐぁっ!?」 ラナが小さく言いかけた瞬間、3回の大きな音と、ゲルテの短い悲鳴が聞こえ、ラナは俯かせていた顔を上げる。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!