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「動くな、抵抗するな、喋るな、何もするな。いいか、お前ごときが私に物申すな。
何のためにお前を拾ってやったと思っている」
今までないくらいの声で、ゲルテが言った。
表情や雰囲気だけで人を殺せそうだ。
そうだ。元々魔王専属秘書なんてやる気はなかったのだ。ただ、勝手に普通の少女に才能を見込んで拾われただけ。
ラナは元々、ラリエット王国の外れにある町に住んでいた。その町が魔王軍によって支配されたところを運よく生き残った、ただそれだけ。
本当だったら普通の生活をしていたはずなのに。ゲルテに見つからなければ。
そしてラナがどんなに頑張っても、ゲルテは労いの言葉さえくれない。
全部ふまえて、本当に嫌になる。
「ラナゲイル、戻ると、言え。はいと言え。私に従え。抵抗するのなら、今度こそお前を殺す」
嫌だ、あんな所に戻りたくなんてない。
あんな、情のない城なんかに。
でも、死にたくない───────
まだ、まだ私は、魔王専属秘書だった頃の償いをしてないのに────
抵抗したところで、勝てるわけがない。
相手はあの、王国中を支配している魔王なのだから。
もう、諦めて戻ってしまおうか。
普通の人として生きたかったけど、自分でも善人になれないことなど分かっている。
そう、なれないのだ。
今ここで死ぬくらいなら、魔王軍の影に潜んで、何もしない、何も考えないで生きる方がましなのかもしれない。
ラナは、全て諦めたかのように考えるのをやめ、締められて苦しい中、静かに口を開いた。
「……………は、い…………魔王さ」
ビシュンッ、ビシュンッ、ビシュンッ
「ぐぁっ!?」
ラナが小さく言いかけた瞬間、3回の大きな音と、ゲルテの短い悲鳴が聞こえ、ラナは俯かせていた顔を上げる。
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