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「へ、兵士達が一瞬で………!」
そこにいたゲルテやアズ達はおろか、遠くから見ていた住民達も驚きを隠せなかった。
兵士達が消え去っていく中、
「フハハハハハハッ!実に面白い!いいぞラナゲイル。私とやろうではないか!」
ゲルテはそれを見て面白そうに笑い、ラナの前に来た。
ラナはゲルテを塵でも見るかのような表情で見つめ、口を開いた。
「───────まれ」
「あ?」
「黙れ、お前は見ているだけで反吐が出る。早急に私の視界から消え去れ」
それは、普段のラナではありえない言葉だった。いくら嫌いなゲルテでも、こんなことは一度もなかった。
まるで別人に変わったようだ。
「……………最早何も言うことはない。分かった、今すぐにお前を殺してやる」
ゲルテは先ほどの冷たい表情に戻り、低い声でラナにそう言った。
「ああ、勿論。真っ向勝負といこう」
ラナはそれに怖気づくことも一切なく、ニヤッと不適な笑みを浮かべた。
二人は魔法の詠唱を唱え始めた。
一瞬たりとも入る隙はなく、アズ達や住民達はただただ見つめるだけだった。
二人同時の詠唱は、青々とした空でさえ灰色に変えていく。
ラナは、考えていた。
ゲルテのことではない。自分のことだ。
本当に、この町の人達には感謝しかない。
こんな怪しい自分を快く受け入れ、少し援護をしただけで仲間になってほしいと言われた。
最初は嫌だったものの、ここ2週間楽しかったことしか覚えていない。
魔王城のことなんて、もう忘れるくらいに。
だったらやはり、この人達を守らなくては。
自分はこれくらいしか出来ない。
昔から戦闘能力しか取り柄はなかった。
でも、これで皆を救えるのなら──────
今は自分に出来る、精一杯のことを。
ラナとゲルテは同時に斬りかかった。
二人はお互いの最初の位置にいて、ラナは漆黒の剣を握ったままだった。
勝負は一瞬。
ゲルテは立ち上がり、腹から血を吹き出して倒れた。
見守っていた皆が目を見開いた。
ラナは無傷。
綺麗なアメジスト色の瞳をゆっくりと開き、剣をしまった。
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