恐るべしまっちゃん

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「レコードがたくさんありますね」  彼女は目を輝かせながら、レコードが並べてある棚を眺めた。 「ああ。友達がレコードに詳しくて、いろいろ教えてもらううちに集めた」  自分の趣味を曝け出すのは少々恥ずかしいが、純粋な目で興味を持ってくれるのは嬉しい。  フェスに誘ってくれたのも然り、相手の好きなものを大切にしてくれるまっちゃんは良い子だ。  じんとしていると、彼女はまた別のものに気づいて目を丸くさせる。 「梶さん、これ……」  前にまっちゃんがくれた日めくりカレンダー。  部屋の一番目立つところに飾って、毎日眺めているもの。 「これ、俺の家宝だから」  思わずそんなことを口走ると、まっちゃんは爆発したように真っ赤になった。 「……ありがとうございます」  綺麗な目が潤んで、余計光を集める。 「こちらこそ……」  ……まずいな。  抱き締めたい。  今すぐ好きだって伝えて、彼女に触れたい。  でも…… 「……座って」  そんなことをしたら彼女は困惑し場合によっては恐怖を感じるかもしれない。  どうにか頭を冷やして衝動を抑える。 「………………」 「………………」  それにしても、この空気、生殺しだ。  俺が意識しているのが伝わっているような気もするし、まっちゃんが少なからずこの状況にどぎまぎしているのもわかった。  落ち着け。  落ち着いて、気持ちを伝えるタイミングを見計らおう。  ゆっくり、慎重に。  彼女を困らせないように。 「あ、コレいただこうかな」 「ど、どうぞ!」  まっちゃんが持ってきてくれたピクルスを咀嚼する。 「ん、美味い。サッパリする」  マジか。まっちゃんは料理上手なんだな。  ますますぐっときて堪らない。 「よかったです。野菜チップスもどうぞ!蓮根は疲労回復にいいって聞きました」  俺に勧めるように蓮根のスライスを手でつまみ微笑むまっちゃんに癒される。  こんなふうに家でいつもまっちゃんが笑いかけてくれたら……。  幸せを噛みしめるようにして、差し出された蓮根チップスを手で受け取らずに直接口に含んだ。  途端にまたまっちゃんが赤面する。  何やってるんだろう。  一人で舞い上がって浮かれて、恋人気分を味わってる。 「……こっちも美味い」 「……ありがとう……ございます」    俺達は目を合わせると、お互いに何故か何度も深呼吸をした。  
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