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客として舞台上を見上げている大人たちは年増女の姿に見惚れているが、先程まで何らかの談義を繰り広げていた若者たちからすると、母親くらいの年頃の女が派手な出で立ちをしている風にしか見えていない。
「俺は厭だねぇ、あばずれにしか見えないや」
「あぁ。何ともみっともない姿だ」
若者たちは英詩を理解出来ないことも手伝って退屈そうに雑談を始めてしまう始末だ。しかしその中でただ一人歌手の姿に魅入っている者がおり、彼だけは友人たちの喧騒を無視して舞台上を見つめていた。
「帰ろうぜ、年寄り臭くていけない」
若者の一人がそう言って席を立つと、他の者たちもそれに続く。しかし一人だけ席を立たず、淡々と歌い続ける彼女から視線を外さない。
「こんなもの時間の無駄だ勇次郎君、帰って脚本を練ろう」
「僕は最後まで鑑賞する、君たちは先に帰ってくれ」
「何を言っているんだ? あんな年増見て何が楽しいというのだ?」
「そうだぞ勇次郎君、我々には為さねばならぬことが……」
「煩ぇんだよ。帰るならさっさと出て行きやがれ」
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