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プリン
ガラス皿の上でちょこんと鎮座するプリンと対峙する。
私にとって、プリンとはカラメルだった。
ずっと昔、黄色い部分は食べられないからせめてとカラメルだけを出されたときのあの虚しさと言ったらない。
それが今、カラメルからプリンへと変わるときがついにやってきた。
スプーンを手に取り、ひとさじすくって、眺める。クリーム色がふるふると揺れている。
おそるおそる口へ運び、舌の上に乗せた。まずは感触を確かめる。
ゼリーやヨーグルトは食べたことがある。しかしそれらとは似ても似つかぬ、ぷるんと不思議な弾力。
行儀悪く舌の上で揺らして楽しむことしばらく。ついに口を動かす。
塊は簡単に砕けてほどけた。そのたびに、初めての甘みと香りが口中に広がる。
やがて、ほどけたそれはあっけなく溶けてしまい、喉奥へと消えていった。
あとに残るのは優しい甘さの名残だけ。
無言で次をすくう。そして口に運び、溶かして飲み込んでは、また次をすくう。
あれよという間に、皿の上からプリンが消えた。
アレルギーによる発作はまったく出ない。当然だ。夢の中で夢のないことが起きてたまるか。
目を閉じ、初めて食べたプリンの味を、口と心の中で反芻する。
よくよく考えてみれば、これまでプリンなんて食べたことがないのだから、いま食べ終えたプリンの味が本当にプリンの味なのかさえわからない。そもそもこれは夢である。実際に食べたわけでもない。
だけど――
夢だろうとなんだろうと、こんなにおいしいんだから、楽しまなきゃ損ってもんでしょ。
目を開け、ごくりと喉を鳴らして余韻を飲み込み、タマゴに短く要求する。
「――おかわり」
「かしこまりました」
タマゴが恭しく頭を下げた。
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