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きっと幸せになれるでしょう
思いつく限りの卵料理をお腹に収め、食後のミルクセーキをちびちびする。もちろん初めて飲むが、甘くてまろやかで舌触りよく、なんというか脳が喜ぶ味をしている。
「満足されましたか?」
「うん、満足。お腹は全然膨れてないから変な感じだけど」
「夢の中ですからね。さて」
ぽふんと、タマゴがひとつ手を叩く。
「まことに残念ではございますが、そろそろお目覚めの時間のようです」
「え、もう?」
時計もなく時間もわからないが、タマゴが言うならそうなのだろう。あっという間のことだった。
「ねぇ、また来れる?」
「残念ながら、次はまた百年後。来られるのも別のお方です」
「そっか。あー、また食べたいなぁ、無理だけどさ」
出された卵料理の数々を振り返る。どれもこれも最高においしかった。しかしそれもこれで終わり。目が覚めたら、私はもう食べられない。
泣きたい気持ちで胸がいっぱいになり、あふれて盛大なため息となる。
「そう気を落とされずに、繰り返しになりますが――」
顔もないタマゴが、なぜか笑ったように見えた。
「お客様はとても幸運な方でございますから、きっと本当に幸せになれるでしょう」
タマゴがそう言い終えた途端、真っ白だった卵の世界がいきなり真っ暗になった。
何も見えない闇の中、自分の体がずっと深くへ、ずっと遠くへ沈んでいく気がした。
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