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あれ?
親族の結婚披露宴だった。私たち一家は同じテーブルで、次々出される豪勢な料理を食べていた。
食前酒、前菜、ポタージュと続き、魚料理が並べられる。
香ばしく焼かれた白身魚にクリーム色のソースがかけられたポワレ。さすがは肉料理と並び立つメインディッシュ。その圧倒的な存在感に期待が高まる。
フォークとナイフで切り分け、ソースを絡め、口に運ぶ。その味にうっとりしては、またひとくちと口に入れる。
そうして、いよいよ最後のひと切れをフォークに刺したとき、男性のウェイターがぱたぱたと小走りにやってきた。すぐ脇にしゃがみ込み私を見上げる。その顔からは血の気が引いてるように見えた。
「お客様、魚料理はもうお食べになりましたか?」
「ええ、これが最後ですけど」
手に持ったままのフォークを示す。ウェイターがゴクリと唾を飲むのが聞こえた。
「大変申し訳ありません。こちらの手違いで、魚料理のソースに卵が使われておりまして」
――心臓がドクンと脈打った。背筋を冷や汗がひとすじ伝う。
「ねぇ、どうしたの?」
硬直して動けない私を見て、隣に座る母が尋ねてくる。
「その、卵、入ってたって、これに」
途切れ途切れにしか言葉が出ない。聞いた母はサァと青ざめ、すぐさまカバンからスマホを取り出した。
「すぐ救急車を」
「あ、待って!」
咄嗟に止めた私の声は思った以上に大きかったようで、会場の声が一瞬、ぱたと消える。
何でもありませんと周囲に頭を下げつつ、声量を抑えて母に言う。
「お母さん、救急車はいいから」
「そんなわけないでしょ」
「その、なんともないの。なんでかわかんないけど」
息はできるし苦しくもない。痒みも痛みもまったくなく、体調は普段そのもの。
戸惑いと混乱でぐらぐらしながら、未だにしゃがんだままのウェイターを見つめて、聞いた。
「あの、本当に卵入ってました?」
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