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いざ実食
ダイニングテーブルを囲むようにして、家族全員が集合した。私は椅子に腰かけ、父母はふたり揃って並び立ち、弟はポメを抱いている。
そして、私の目の前、テーブルの上に鎮座するは、スーパーで買ってきたカップ入りのプリン。お値段税込105円也。
「まずは少しだけだぞ。いっぱいはダメだからな」
不安げに見守る父。
「しんどくなったら言ってね。すぐ救急車呼ぶから」
スマホを構えて臨戦態勢の母。
「おねえちゃん、がんばれー」
「ワン!」
無邪気に応援する弟とポメ。
三人と一匹の衆人環視の中、私はこれからプリンを食べる。
結婚披露宴で卵入りソースを食べてしまうという大事件が起こるも、なぜか発作は起きなかった。
これはもしやということになり、確認のためこのように仰々しくプリンを食べることになった。
プラスチックスプーンを手に取り、小指の先ほどの大きさだけすくいとる。改めて家族全員と頷き合ってから、意を決して口に放り込んだ。舌の上に乗せて感触を確かめ、口を動かして砕いてほどき、喉奥へ飲み下す。
ずっと忘れようとしていた、しかし忘れようもないあの味が口の中にふわりと広がり、儚く消えた。卵の世界は間違ってなかったんだなぁとしみじみする。
「ど、どうだ?」
「大丈夫?」
「おねえちゃん?」
不安げに見つめる三人へ、なんともないと首を振って答え、
「なんか、治ったみたい」
私と卵アレルギーとの長年の付き合いは、急に終わりを告げた。
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