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卵の世界
見上げる限り青い空。見渡す限り緑の草原。見通す限り横一文字の地平線。そんな場所に、私はいた。
自宅は日本の住宅密集地。最後の記憶は布団の中。気づいてみればこの光景。
要するに、これは夢なのだろう。どこぞの特殊部隊に拉致されてこんなところに放置された可能性もなくはないが。
しかし、よりにもよって卵の夢とは、厭味な夢にもほどがある。目の前にあるそれを見つめながら、私は盛大に息を吐いた。
卵が埋まっている。
人間でいえば下半身の部分が丸々地面に埋まっており、上半身だけが地上に出ている。
色は白く、形はまさに卵型。一見して鶏の卵とよく似ている。大きさが一軒家ほどもある点を除いて。
その巨大卵に、人ひとりが入れるサイズのドアと巨大な看板がくっついている。看板には、
『ようこそ 卵の世界へ』
100メートル先からでも読めそうな文字が、でかでかと書かれていた。
この状況、求められているのはドアをくぐることだろう。無視して草原を散歩してもいいがそこは夢の中、夢の主が期待している通りに応えてやるのが筋ってものである。
ノブを回して押し開ける。音もなく、難なくドアは開いた。
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