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開店したばかりの店先はとても静か。
今日は陽が射して暖かいし、丘陵から吹き抜ける風も穏やかで気持ちがいい。
こんな日はスークスの昼寝がとっても捗りそう。
「テンガン眠る、谷の城。金銀財貨の墓場となりて……」
旅芸人が歌っていた曲を口ずさみながら、リズムに合わせて手を動かす。
歌を歌いながら旅ができるくらい、このテンガン領も平和になったということ。
隙間風が入る作業部屋には、外で遊ぶ子どもたちの笑い声も届く。
今日はなんだか良い日になりそう。そう思っていた矢先だった。
「ここにある薬、全て売ってくれ!」
どこぞの世間知らずの声が、店先から聞こえてきたのは。
薬の在庫を全部売り払ったら有事の時はどうすればいのよ、全く。
私はお気に入りの帽子を手に取り、店先へ勢いよく飛び出した。
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