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目的地であるシデ村は山を三つ超えた先にある。
道中は危険な魔物も多いと二番目の姉に止められたが、もう猶予はない。
二人の従者だけ連れて夜逃げするように出て来たのが功を奏したのか、今のところ追手の影はなかった。この隙に一気に山を越えたい。
が、準備を怠るのは愚行。三番目の兄の冷静さを見習って、手前の村で物資補給をすることにした。
「ええと、この村は……」
「イズモ様、地図の向きが上下逆です」
「わ、わかってる!」
金と銀の鎧を着た従者の金色の方に指摘され、広げた地図を咳払いしながらひっくり返す。どうりで全く読めなかったわけだ。
「極東の門、トルジカ……」
テンガン領極東地方の入り口であるトルジカ。
広大な丘陵に囲まれた村には、恵みの風を受ける大型風車が立ち並ぶ。
それに、この村には百年戦争で魔族を裏切った魔女が逃げ果せているのだとか。
魔女もゴブリンもスライムも、どんな種族が住んでいても驚かないのがこのテンガン領だ。
「トルジカの魔女は魔族の研究所で薬学書数千冊を網羅したと言われています。事実、彼女は5年前まで死病と言われていたシグル感染病の予防薬の調合に成功しました。シデ村の件でも助力を乞うてみては?」
今度は銀色の方。どうやらこいつら、俺を世間知らずの引きこもり阿呆と思っているらしい。
「それくらい知ってる。だが魔女は強欲で強かだと言うじゃないか。どんな見返りを求められるかわかったもんじゃない」
しかし、彼女の作る薬の効力は本物だ。苦しむシデ村の人々へ届けたら、きっと何よりの手土産になる。
そうと決まれば目指すは魔女の薬屋。
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