35人が本棚に入れています
本棚に追加
/89ページ
門の近くで遊んでいたゴブリンの兄弟に「魔女の薬屋を知らないか?」と尋ねたら、
「マジョ? マジョって食べれるの?」
「おれらのかーちゃん、まじょみてーにこえーよ!」
「ほんものの剣!? そのまっくろな兜もかっけぇー!」
と、無駄に大声で絡まれてしまった。
ええい、実家に噂話が流れないように、なるべく目立ちたくないのに……!
「と言いつつ、なぜイズモ様は肩車しているのでしょう」
「お人好しですからね、イズモ様は」
キンとギンは適当に子ブリンをあしらいながら、肩に一人、両腕に二人を抱えてマッスルポーズをしている俺を遠巻きに見ている。おい、助けろ。
「マジョはしらねーけど、クスリ屋ならしってるよ」
「本当か!?」
「うん。あそこの赤いやねのところ。とんがりぼうしをかぶったしわくちゃなばーちゃんがいっつもひるねしてるんだ」
「それ絶対魔女だろ! 礼を言う、少年!」
「いーってことよ、あそんでくれたおかえしだ!」
気持ちの良い笑顔で手を振る子ブリンたちと別れ、彼が指差した赤い屋根の建物へ向かう。
村の中の一つ小高い場所に風車と並んで建つ家、というかオンボロ納屋? あばら家? 馬小屋? は、煙突から白い煙を出している。中に誰かいるということだろう。
近づいて改めて思う。乾いた土壁と木が辛うじて形作っている、店と言うにはあまりに商売っ気のない外装だ。まぁ、この村の民家はどこも似たような感じだが。
軒先に出された手書の看板と(お世辞にも上手な字とは言えない)、立て板にぶら下げられた乾燥薬草が辛うじて店っぽさを演出している。
こ、この先にトルジカの魔女が……。
「緊張していますね、イズモ様」
「ファイトですよ、イズモ様」
「お前らはなんでそんなに距離を取ってるんだ?」
「「だって魔女、怖いですもの」」
きっとこの二人は主人よりも長生きする従者になるだろう。
ここで俺まで怖気づいていては示しがつかない。従者二人が外で留守番を名乗り出る中、意を決して建付けの悪い隙間だらけの扉を開けた。
「し、失礼する……」
声が裏返ってしまった。幸いなことに店内には他の客はいなかった。よかった、情けないところを見られなくて……。
だが、中を見渡してすぐに別の衝撃が走る。
最初のコメントを投稿しよう!