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「なんだ、この品揃えは……!」
オンボロ小屋の中には、首都モリオンの薬屋でもなかなかお目にかかれないような上級薬がみっしりと並んでいた。
瓶詰にされた軟膏、保存が難しいシロップ薬、数えきれないほどの錠剤が入った壁一面のガラスケース。百年戦争で底を尽きたはずのエリクシールなんかも湿布と並んで売られていた。
間違いなくテンガン領で一番の回復スポットだろう。
愕然と店内を見渡していると、箱詰めにされた粉薬が山になっているカウンターの奥で、何かがもぞりと動いた。
とっさに背中の剣に手を伸ばすが「フガッ」という間抜けな鼻息が聞こえて、緊張を解く。
子ブリンの言う通り、黒いとんがり帽子を被った「ザ・魔女です」と言わんばかりの老婆が、揺り椅子で豪快に昼寝をしていたのだ。
「も、もし、店のお方……」
「フガァ~、んぐぅ~」
「……あのぉ!!!」
「フギャッ!?」
どでかい魔鉱石のピアスが付いた長耳に向かって大声を上げると、全身の毛を逆立てた小柄な老婆が飛び起きた。
曲がった腰から「バキッ」という嫌な音が挨拶代わりに鳴る。
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