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「なんだい、人が気持ちよく昼寝してたところに……」
「商売っ気なさすぎるだろ。客だ、客!」
「そーかい。見るからに名家を飛び出してきた若い剣士っぽいが、滋養強壮薬でもお探しかぇ?」
「な、なぜそれを……!」
「ヒッヒッヒッ、何でもわかるよぉ。それで、どこの娘っ子が気に入ってるんだい? この村で一番と言えば、やっぱりサキュバスのサロメットか? あの子の淫夢に応えられる薬と言えばチュパカブラの爪を煎じた……」
「そこじゃないっ!! 勝手にサキュバスと淫らなことをしにきた男にするな!」
どうにも相手のペースに引きずり込まれてしまう。くっ、これが魔女の力か……!
「……薬を所望している」
「ほう、どんな薬だい?」
「全部」
「はぇ?」
「ここにある薬、全て売ってくれ!」
それだけの価値はある。
どれをとっても一級品なのは品揃えや保管状況を見ただけでわかった。きっとシデ村の人々の役に立つ。
呆ける魔女としばらく見つめ合っていると、カウンターの奥で別の人影が動いた。
他にも従業員がいたのか――と思いきや、カラフルな玉暖簾を勢いよくくぐって現れたそいつは、おおよそ従業員とは言いにくい風貌をしていた。
「こらボクちゃん! 営業妨害もほどほどにしなさい!」
フィンガーレス手袋を付けた小さな指を勢いよく突き立てられ、よく通る澄んだ声が真っ直ぐに届く。
白いケープ、ショートパンツから伸びる健康的な足、ぶかぶかなレザーブーツ。
なにより特徴的だったのは、パン屋のロゴが入った紙袋の目出し帽を被っていたこと。
何だそれ、村で流行ってるのか?
紙袋から生えるたっぷりとした薄紫色の三つ編みを揺らした変質者は、呆ける客を見て得意げにふんぞり返ったのだった。
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