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第2話 一角の乙女・ユニファ
「営業妨害もほどほどにしなさい!」
ふん、決まったわ!
寝起きのスークスを困らせていたのは、見るからに青二才な冒険者だった。
頭のてっぺんからつま先まで真っ黒な鎧を着てるけど、声だけでわかる。まだお尻の毛も生えてない世間知らずなお坊ちゃまね。
今どき全身鎧なんて、戦後よ? 仮装のつもりなのかしら。
「えーっと……君は? トルジカの魔女のお孫さんか?」
「あたしがこんなデカい孫がいるような歳に見えるってのかい!?」
「まぁ、それなりに」
「まぁ~~~~~ッ!」
スークスが素っ頓狂な声を上げてロッキングチェアに座り込んだ。最近シワシワの顔にさらにシワが増えたってぼやいてたから、相当ショックを受けたのね。
「ボクちゃん、スークスをいじめないで! 事実だけど」
「ぐふっ」
「君がトドメを刺してどうする!? それにボクちゃんはやめろ! というか、君は誰なんだ!?」
ふーん、ツッコミの反射神経は悪くないわね。ぽやんぽやんだけど地頭の回転は速いみたい。
でも、想像力がなってないわね。うん、全くなってない。
「誰がどう見てもトルジカの魔女スークスの一番弟子、美少女薬師ユニファちゃんでしょ!」
「知らん」
「え」
「君が薬師? どう見たって子どもじゃないか。それに美少女って、顔を隠して言うことか?」
「ん、なっ……!」
た、たしかに、ワケあって人前では紙袋を被る生活をしてるけど「お前は本当に顔だけはいいねぇ、顔だけは」って満面の笑みのスークスに言われて育ってきたのよ!?
それに子どもって、穢れ知らずな清純オーラ全開のボクちゃんに言われたくないわ! 次の春が来たら120歳になるのよ!?
「……ご所望なら薬草配合式15,874,238個を今ここで唱えましょうか?」
鬱憤の全てを飲み込んで、言ってやった。
これがオトナの対応ってやつよ。なのに――。
「いや、いい」
「そこは言わせなさいよ!」
「君のごっこ遊びに付き合っている時間はないんだ。事態は急を要する。トルジカの魔女スークス、シデ村を救うためにあなたの薬がどうしても必要なんだ」
ボクちゃんは私をさらっと無視して、スークスに語りかけた。何よ、感じわるっ。
でも、シデ村ってたしか……。
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