ツイードジャケット

3/5
前へ
/5ページ
次へ
ある日、男はいつものように朝の散歩から帰って、いつものように仕事に出かけた。 だが、夕方を過ぎても男は帰らなかった。 帰りが遅くなるのは、珍しいことではなかった。 男がいずれ帰ってくることを疑う理由などなかった。 ステラは、いつものように玄関マットにおすわりして、男の帰りを待った。551af57e-8b35-453d-972f-f73b1741b0e3夜遅く、玄関の鍵を回すカチャカチャという音がした。 ステラの両耳がピンと伸びた。 しっぽを振って、ドアに駆け寄った。 タイルで滑って転びそうになった。 ドアが開いた。 男はいなかった。 男の妻と、涙で瞼を腫らした幼い息子が入ってきた。 ステラは、おすわりをして待った。 おすわりして、一晩中男の帰りを待った。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加