すれ違い

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すれ違い

「ゆー君、私が卒業しても、 家に遊びに来るって行ったのに、 来なかったじゃない。 待っていたわけじゃないけど…。 私も中学の準備もあったし、 新しい学校生活に慣れるのに忙しかったから、ゆー君もきっとそうなんだな、 きっと新しいお友達ができたんだって そう思ってた。 ちょっと淋しかったけど…。 その後だって、 道で会っても 挨拶もしてくれなかったじゃない? いっつも怒ったような顔をして…。 話しかけようとすると 逃げるようにいなくなって…。 ゆー君が中学生くらいになった頃かしら? かわいい女の子を 連れて歩いているのも 何度か見かけたわ。 とてもお似合いだった。 ゆー君は、 見るたびに背が高くなって、 逞しくなって 素敵になって… それで わかっちゃったの。 私は…、 ただの仲のいい、 遊んでくれるお姉さんでしかなかったんだなって、 大人になったゆー君には もういらないんだって。 ゆー君と一番親しいのは自分で、 ゆー君の隣は自分の場所だって勝手に 思い込んでいたのよ、ずっと。 バカみたいに。 私だっていつもあなたのことばかり 考えていたわけじゃないわよ。 男子の目を気にしなくていい 女子校って楽しかったし、 部活動のコーラスも頑張った。 勉強も結構大変だったし。 でも、時々ふっと思い出すの…。 ゆー君どうしてるかなって。 そういう時、 なんでなのかいつも あの怒ったような顔が浮かんで… 中学生になってから、 お菓子を作るのが好きになったの。 休みの日に部活の練習がないと クッキーやケーキを焼いたりしていた。 バレンタインのチョコを 友達と作ったのがきっかけでね。 その時、 「あげたい人いないの?」って 友だちに聞かれたの。 「せっかく上手にできたのに、 家族で食べるだけなんて もったいないって。」 友だちが言うから、 「好きな人いないから仕方ないわ。」って答えた。 そうしたら、嘘ついているつもりないのに、 なんでだか胸が ちくっと痛かったの。 初めてデコレーションケーキを作った時、 お父さんに、 父に「誰かの誕生日か?」 って聞かれて、ああ… ゆーくんの誕生日だったって思った。 お祝いに持って行きたかったけれど、 ずっと会ってないし、話もしてないから… 結局素朴な焼きっぱなしの にんじんケーキを作って 持っていった。 でも、家には誰もいなくて、 ドアノブに掛けて置いて来たわ。 かえってほっとしたけれど。 会いたいけれど、 会いたくなかった…。 …ごめんね。詰まんない話して…
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