3章

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「ピアノ弾いてくんないの?」 「もうちょっとゆっくりしてから」 「ゆっくりしたらってことは弾いてくれるってことかーたのしみー」 いつも通りのテンションに戻った小山はそれはそれは美しい所作で紅茶を飲む。 育ち良い奴はやっぱ違うと思い知らされながらこちはも負けじと美味しそうに飲む。所作では勝ち目ないから。 「美味しそーに飲むねー」 「勝ち目ないし。」 「ふーん?」 会話終了、そして美味しそうに紅茶を飲む。所作なんて知らん。 そうやってたらたら飲み進め、ティーカップが空になったのは30分後だった。 「飲み終わったことだし、ピアノ聞かせて?」 「ん。」 楽譜は持ってきてない。 夏休みの一日一日をピアノに捧げてきたのだからさすがに覚えた。 練習し始めた時は伴奏者の気持ちもちょっとは考えて欲しいなんて思ってたけど、弾けるようになった今ではなんだかんだいっていい曲だな、なんて思ったりもする。 誰か人に聞かせるのは初めてで少し緊張する。 いつも通り弾けばいい。 鍵盤に指をそっとのせ僕は弾いた、いつも通りに。 ・ ・ ・ 「す、す、す、すご、すご。」 「うん。」 「まさかあいつらが作ったやつがこんなにも難しそうなやつだなんて思ってなかったー。すごーい!皆で歌うの楽しみだねぇ!」 「多分行けないから期待しないで」 まだ教室内に入れない。 クラスメイトと同じ空間に入れない。 こんなにも人が怖くなるなんて思いもしなかった、あの時は。 中学校を卒業するまでは家族に甘えないために心を鬼にして何も思わないように過ごした。きっとその時から怖いと思ってた。それを認識しないようにしていただけ。 「俺は遥と行きたいなー」 「諦めな」 「……」 「……」 黙り込んでしまった小山。 そりゃそうだ。励ましの意味で言ったことを否定されたら誰でもイラッとくるもんね。 「ごめん。」
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