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そこからは、早送りの動画だった。ヒヨコのからだが黒の羽毛で覆われていく。同じ色の、艶々とした羽が肩甲骨のあたりからみるみる伸びる。細く小さかったからだは、クロサギに似た姿に膨らんでいく。
「わたしは地球の時間でどれくらいここに居たの?」
そう話す口元はするすると朱色の細い嘴へと変わっていく。
「ちょうど一日」
「地球の時間の感覚はやっぱりポゴレタ星とは違うのね。もっと居た気がするわ」
言い終わったヒヨコは、大人のフウフウ鳥へと変わっていた。光沢のある黒曜石のような羽が朝日を受けて濡れ色に光った。
「じゃあ、行くわね」
「もう?」
「言ったでしょ。巣立ちよ。どっちにしろ、フウフウ鳥は渡り鳥。ひととこにはいられないの」ヒヨコは首を傾げるように動かした。「どうして鳥は渡るか知ってる?」
「……餌と繁殖のため?」
「味気ない答え。もっと考えなさいよ」
別れのキスをするように、ヒヨコは尖った嘴をやさしく僕の右頬に添えた。僕は柔らかく巻き毛がうねるその顔をそっと撫でた。
ヒヨコは僕からゆっくり顔を離し、「ロルラ、ロルラ」と鳴いた。
「じゃあ、元気で」
ヒヨコはまた「ロルラ」と鳴いた。もうヒトの言葉は話さなかった。荒れた細い地面を数歩後ずさり、その先の市道を向いた。
数歩の助走のあと、翼が力強く空気を押し下げた。
道路に飛び出す直前、からだをふわりと浮き上がらせ飛び立つと、あっという間に朝の白い光の中に消えていった。
成層圏を越え、宇宙を渡り、ポゴレタ星へ帰るんだろう。そんな飛び方だった。
ぼうっと温い風に当たっていると、スマホが部屋の中から僕を呼んだ。
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