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東京に出てきて驚いたことの一つ。
午前に頼んだアマゾンが夕方には届くこと。
置き配の段ボール箱を抱えてドアを開けると、部屋には電気とテレビが点いている。床の上にちょこんと座っていたヒヨコが、僕を向いて興味ありげな顔をした。「その箱、何?」
「まずはメシを食ってから」
僕はコンビニおにぎりのフィルムを剥がしてヒヨコの横に置いた。三十円引きの唐揚げ弁当を一度手に取って、ヒヨコに唐揚げはまずいよな、と静かにケースに戻してきた。
ヒヨコがおにぎりの端からご飯を一粒ずつ口に放り込み始め、僕ももう一つのおにぎりに齧りつく。左手のスマホで通知音が鳴り、画面で名前が輝く。紺野梨花。
パタパタとLINEをやりとりしてスマホを置くと、ヒヨコが右眉を上げ、含み笑いを僕に向けた。
「恋人から?」
「まあね」
「すっごいニヤついてた。気持ち悪いくらい」
「いいじゃん。別に」
「恋人なら、どうして一緒に暮らさないの?」
僕は一呼吸置いて重々しく告げた。
「ご心配なく。結婚の約束をしてる。そのうち一緒に暮らす」
ヒヨコは両肘を自分の膝に乗せ、うっとりしたような、あきれたような顔をした。
「素敵。でも『そのうち』って何よ」
「それは……」
都合のいい逃げ言葉。
「いろいろあるんだよ」
ぶっきらぼうに僕が返すと、ヒヨコは肩をすくめた。
「で、彼女にわたしのこと話したの?」
「いや……」――今、僕の部屋にヒヨコがいるんだ。女だ。半裸だ。「……あとで話す」
ヒヨコがふふんと笑って腕組みをした。「恋人に隠し事をするなら、隠し事をされても文句は言っちゃ駄目よ」
「あー、あ、そうだ!」僕はわざと大声を出しアマゾンの箱のテープをびりびりと剥がした。
「何が入ってるの?」
「……分からない」
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