フウフウ鳥が歌う夜

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 今日の午前、会社の休憩室で缶コーヒーをすすりながら、スマホでヒヨコの服を検索していた。さすがに僕のハンカチだけは可哀そうすぎる。 「リカちゃんアウトドアコーデ」なる、なかなか良さげな商品ページにたどりついたところで、運悪く上司に話しかけられた。「何、見てるんだい」なんて覗かれたらマズい。子供もいないのにリカちゃんの服はマズい。  慌てた僕の指は画面の真ん中にあった「一緒に購入」「レジに進む」「注文を確定」ボタンを次々押し、何かの商品を三秒で買い終えていた。  そのまま打ち合わせに突入し、僕はさっきまでアマゾンのことを忘れていた。 「まあ、開けてみれば分かる」  箱を開くと、リカちゃんアウトドアコーデは入っていない。別配送だろう。ビニール袋に入った平べったい商品だけが底にある。  それを取り出して、僕は深く、深くため息をついた。「……リカちゃんはリカちゃんだけど、リカちゃん柄の子供のパンツだ。返品だ。面倒くさ」  テーブルの縁に腰掛けていたヒヨコが、足をぶらつかせながらいたずらっぽく目を細めた。 「返品が面倒なら、あなたが穿いたら?」 「僕が?」――これを穿いた日に限って激しい腹痛に襲われ、僕は救急車に乗せられる。救急隊員が処置のために僕のズボンのベルトを緩め、ジッパーを下ろす。リカちゃんがこんにちは。隊員はそっとジッパーを元に戻す。「穿かない」 「じゃあ、彼女にあげたら?」 「梨花に?」――まあ、同じリカだし……どうしても、っていうなら……でも、そういうシュミ、あったんだ……ごめん、やっぱちょっと……距離、置いていいかな……。「あげない」 「近所の子に配ったら?」 「配る?」――おはよう。君、小学生? 僕はそこのアパートに住んでるんだけど、このパンツ、君にあげるよ。いや、怪しい者じゃないから。あっ、おまわりさん、いや違うんです。え? パトカーに乗れ? 「……返品する」
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