フウフウ鳥が歌う夜

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 ポゴレタ星の言葉だろうか。それとも、ただの(さえず)りだろうか。  白い砂を舞い上がらせてトプトプと湧く水のような、澄んだ声がワンルームの部屋を満たしていく。  水底に沈むように眠りに引き込まれ、うとうとと夢を見た。    トキに似た黒いシルエットが十数羽、大きな青い月と小さな黄色の月、二つの満月の前を横切っていく。  ロルラ、と夜空を歌声が渡る。  次の瞬間、僕は飛んでいる。眼下に、眠りについた街が月明かりに照らされ浮かぶ。  やがて大地と夜空の境界が透明な紫に染まり始める。夜明けだ。  夢の中で、僕は分からなくなる。  これは僕が見ている夢だろうか。それとも、ヒヨコが見ている夢だろうか。  ロルラ、と響く声がフェードアウトする。  僕は、僕の実家の玄関に立っている。親父が僕を怒鳴る。 「勝手にしろ! 二度と帰って来るな!」  心の隅で、いつも大らかな母さんからの温かな言葉を期待する。けれど母さんは玄関にさえ姿を現さない。  僕はざらざらの心のまま新幹線に乗り、知る人のいない街でこっそり借りていた安アパートの床にリュックを下ろす。荷物を解いているうち、入れた覚えのないジップロックの袋が出てくる。  僕名義のゆうちょ銀行の通帳と印鑑だ。残高は五十万近く。通帳の間から、薄い紙が一枚落ちる。  お父さんには内緒。  いざとなったら使いなさい。  あなたの人生なんだから。あなたが生きたいように生きなさい。ただし、上手くいかないときも自分で責任をとりなさい。  お父さんも、そのうちほとぼり冷めるだろうから。  そしたら、顔を見せなさい。  僕は、僕が家を出るとき母さんはどこにいたんだろう、と考える。  いつも大らかに見える母さんは、泣きたい時どこで泣いていたんだろう、と考える。  僕は、これには絶対手をつけないと決めて、押し入れの奥深くにしまい込む。  ロルラ。ロルラ。ふたたびヒヨコの声が響く。  ヒヨコが故郷を歌っている。
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