フウフウ鳥が歌う夜

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 さすがに毎朝、卵かけご飯は飽きてきた。  僕はタイマーで炊きあがったほかほかご飯を茶碗によそい、リモコンやティッシュ、空き缶や雑誌で占領されたローテーブルの隙間に置いた。  その横でMサイズの小ぶりの卵が白く艶やかに輝いている。 「卵かけご飯は理想の朝食です」  ひと月ほど前、テレビから聞こえたその言葉に僕はスマホから顔を上げた。  目に飛び込んできたのは、湯気の立つ白いご飯にのる、ぷっくり黄身の盛り上がった卵。だし醤油がちょろりとその上を回る。箸先がくっと黄身をつつくと、山吹色がトロリとご飯に絡まった。  観客の、もしくは効果音の「わあ」が大げさに響いたあと、画面は年配の女性に変わった。栄養学博士だという彼女は、笑顔で朗らかに高らかに卵かけご飯最強説を披露した。 「時間がなくても、卵かけご飯さえ食べれば炭水化物とタンパク質をいぃーーーっぺんにとれますから」  観客、もしくは効果音が「へええ」と賛同する。  いつもなら、こんな情報は一時間も経たずに忘れている。そもそもテレビはBGM代わりに見るともなく点けているだけだ。音がない独りのワンルームの夜は、静かすぎる。  けれどこの時は、信用できそうな博士の言葉と口に広がったヨダレに、僕も「へえ」とつぶやいた。  今朝も、いつも通り箸でご飯の中央に凹みをつくり、いつも通り卵の殻をテーブルでトントンと叩く。  いつも通りご飯の上で殻を割った、その時。  明らかに黄身でも白身でもない「何か」が卵から滑り落ちた。  それは数本の細く白く長い足をばたつかせ、「キャッ」という甲高い声とともに茶碗の向こうに転がり、視界から消えた。
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