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皓と2人並んで、会社のエントランスを歩いていた。
ただそれだけのことが、随分と久しぶりに感じる。
「どこに行こうか…」
ぎこちなく話しながらエントランスから出ると、
会社を出てすぐ目の前の鉄製アーチに
長い足を投げ出して腰掛けている1人の男性がいた。
嘘でしょ……修。
なんで、なんでここにいるの。
気づかない振りで素通りしようかと一瞬迷った。
その迷った一瞬に
「ゆ……森田さん」
声をかけられてしまった。
どうしよう。これから皓に話そうとする話題の中心人物が、不意に目の前に現れて動揺する。
しかも名前を呼ばれてしまっては、無視することも出来ない。
「し………宮崎さん、どうしたの?」
皓がスルッと駅に向かってしまいそうで、慌ててまた腕を掴んだ。
皓が、心底嫌そうな顔をしてわたしを見る。
いたたまれない……。
「ちょっと…、話せますか?彼氏さんも一緒に」
修の言葉に驚いて、思わず皓の顔を見る。
皓も目を丸くしてわたしを見た。
どうすればいいんだろう。思いがけない事態に、頭が全く回らなかった。
別れてから1年経っても、恋しくて恋しくて堪らなかった修が目の前にいる。
だけど、修に恋焦がれて枕を濡らしていたあの頃のわたしとはもう違う。
わたしが掴んだままの腕は、これからもずっと一緒にいたい皓。
適切な返事の言葉が思い浮かばなく、途方に暮れていると
皓が、口を開いた。
「……分かりました。そこのカフェでいいですか?」
と……。
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