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修………いけないいけない。
宮崎さんの話がひと段落したところで、
食べかけのパスタをクルクルとフォークで巻き取った。
『ひとくち……』と言いかけて言葉を飲み込む。
もう、食事をシェアするような間柄ではなくなってたんだ。
いつものレストランのいつもの席で、感覚が麻痺してた。
気を落ち着ける為に、フォークを一旦そっと置いた。
宮崎さんがそれを見て「…ふっ」と笑った。
「なに?」
「いや、なんか懐かしくて。そうやっていつも、そっと置くよな。なんでも。」
そう言えばよく言われていたな。
指が綺麗、仕草が綺麗……なんでもそっと置く。
その手元、ずっと見てても飽きない。
そんなことを言って笑う修の顔を、いくつも思い出した。
あの頃のわたしは、間違いなく愛されていたのに。
……落ち込むからやめよう。
そうだ、ちょっと相談してみようかな。
彼女は聞いてこないだろうけど、頼まれごとを引き受けるんだから、少しぐらいアドバイス貰ったってバチは当たらないでしょ。
「わたしもちょっと、内密に聞いてもらいたい件があるんだけど……」
「うん、どうした??」
わたしは、転職しようかどうしようか迷っていることを簡潔に話した。
「……どう思う?わたしはやってみ」
「すっげーーじゃん!!!」
食い気味。いや食い過ぎ。
「いいと思うよ俺。すごいと思う。なんなら俺がやりたいわそれ!その話が結菜に来たってことは、結菜の頑張りが認められたってことじゃん、俺も嬉しい。結菜が頑張ってたこと、一番近くで見てきてるし!」
あら、今度は修が興奮しちゃって、呼び方が“結菜“に戻ってるよ(笑)
しかも連呼。
「……(笑)ありがと。なんか振っきれたわ」
そうだよね。
単純に考えて好条件のありがたい話なんだよね。
何を迷っていたのだろう、と思うほどにハッキリと肯定され
嫌いになりきれない男の顔を、まっすぐに見つめた。
修はいいんだね。これで、縁が完全に途切れても。
興奮気味の、修の顔を見納めに。
わたしも前を向こう。
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