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inside of me
駅で「お疲れ様でしたー!」と言い合って、自然に二手に分かれる。
わたしは皓と一緒。
美奈ちゃんは佐藤さんと一緒。
今日の皓は、なんだかいつもよりご機嫌に思えた。
最近の、少し寂しげな笑顔と違う。
以前の朗らかな皓だ。
わたしもそんな皓を見て嬉しくなる。
電車の中でも、付き合いたての頃のように話が弾んだ。
12月も半ば、冷たい風が吹くようになった。
駅からのたった5分の距離でも身体が冷える。
家に着いてすぐにエアコンとホットカーペットとお風呂のスイッチを入れた。
「皓、今日どうする?泊まって」
『行く?』まで言えずに
コートのまま後ろから抱きしめられた。
「どうした?珍しいね。酔って」
『んの?』まで言わせて貰えずに、唇が落ちてきた。
軽く合わせるだけじゃなく、
熱いキスだった。
“触れたくなっちゃった”の、先のキス。
さっきまで、久しぶりに心から楽しそうにしてた皓に、わたしも嬉しくなっていたのに
気持ちが少し、しゅるしゅると萎む。
……また今日も、
わたしだけが……。わたしだけを……。
皓は、わたしを抱けないことを負目に思って、わたしだけを満足させる為に、触れようとしているんだな、そう思ってしまう。
無理にして欲しいわけじゃないのに
なんて伝えればいいのか分からない。
冷え切った部屋を、急激に設定温度まで上げようと
頑張っているエアコンの音が、大きかった。
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