新しい年

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仕事始めから4日経ち、慌ただしさも落ち着き日常が戻り始めた金曜日。 (こう)は一泊の出張で、わたしはまっすぐ家に帰るか、食事して帰るか迷っていた。 美奈ちゃんに声を掛けようか、と思ったけど 佐藤さんが斜め前の席でいそいそと帰り支度をしているのを見て、今日もデートか、と諦めた。 たまには家でのんびり過ごそう。 もし仕事が早く終わって皓が出張先から電話をくれたら、 外にいるより家にいた方が話しやすいし。 そう思い、家の近くのスーパーで デリと白ワインのミニボトルを買って帰宅した。 1人晩酌の準備をしていると、スマホが鳴った。 え、早い!もう仕事終わったの?と画面を見て 胸が大きくひとつ、ドクンと波打った。 ……まだこんなに反応してしまうのか。 情けない。 出ようかどうしようか迷ったけど……覚悟を決めて出る。 「……もしもし」 「結菜(ゆいな)?俺」 懐かしい(しゅう)の声が、左耳に響く。 「うん、久しぶり。どうした?」 「メシ食った?」 「ま……えっと、もう家にいる」 『まだ食べてない』と正直に言いかけて、 前回のように『メシ行ける?』と言われても困る、と思って言い換えた。 「家かぁ。行ってもいい?」 いやいやいやいや。あかんでしょ。 「なんで?」 「ちょっと、話聞いてもらいたくてさ」 仕事の話かな。前に美奈ちゃんから、企画が通らなくて(へこ)んでいると聞いた。 それはずっと、心のどこかで気になってはいた。 付き合ってた頃、わたしは修にいろんな話を聞いてもらった。アドバイスも沢山もらったし、背中も押してもらった。 完全に返すことは出来ないけど、聞ける話なら聞いて力になりたいと思った。 「いま、電話で良ければ聞くよ?」 「えー、なんか買ってそっち行くよ。引っ越してないでしょ?」 ダメ。絶対。 あぁそうか。正直に言えばいいだけだ。 「……あのね。わたし、彼氏できたのよ」 「あっ、マジ!?今そこ居たりすんの?」 「ううん、今日はいない。でもそんなわけだから、来て貰っても家にはあげられない。今、電話で良ければ話せるよ」 「そっか……そりゃマズイよな。じゃあ……俺いま外だからさ。車に戻ってかけ直すわ」 「うんわかった。じゃあね」 ふぅ。 正直に言えば、逢いたい気持ちが全くないわけではない。嫌いで別れたわけじゃない。 でもいま修と2人で逢うのは、皓に対する裏切りになる。 わたしは、皓に信用される彼女でいなければならないのだ。 だから、これでよかったんだ。
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