新しい年

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15分ほど経って、(しゅう)から電話がかかってきた。 美奈ちゃんから聞いていた通り、念願の企画課に異動になったはいいものの、行き詰まっているらしい。 わたしだって偉そうなことは言えないけれど、 朝倉企画での企画課の経験だけで言えば、一応先輩なわけで…分かる範囲で話を聞く。 「例えばさぁ…」 と言う話の流れで、LINEに画像が送られてくる。 「この2件だと、どっちがいいんだろ」 提案書類のレイアウト。重要な部分は隠されている。 「うーん、この2つだったら、最初の方のやつがいいんじゃないの?」 画像を見ながら相談に乗った。 修からのLINEなんて久しぶりだな。 画像だけだけど。 また、トーク一覧の一番に上ってしまうな、なんてぼんやりと考えていた。 アドバイスと言えたかどうかも分からないぐらいの話だった。 でも、画像を見ながら意見を聞きたかったのだとしたら、会って話をしたがったことにも(うなず)けた。 「わたしなんかよりもさぁ、西野課長に聞いた方がいいんじゃないの?」 「結菜の方が聞きやすいんだもん」 『だもん』て。 仕事の話をしながら、懐かしい朝倉企画の様子が目に浮かぶ。 あの中で、修も美奈ちゃんも、今も頑張っているんだな。 そこにわたしがいないことが、不思議な感じがした。 「結菜の使ってたデスクさぁ、腹んとこの引き出し開きにくくね?」 「あー(笑)あれ、コツがあんのよ。左側をちょっと持ち上げるようにして、両手で開けてみて(笑)」 「それ早く教えといてよ。いちいちガタガタやってたじゃん」 2人で笑う。 「いろいろサンキューな。ちょっと整理出来たわ」 「なら良かったです(笑)」 「そっちはどうよ」 「わたしー?わたしも少しずつ慣れてきてるよ」 「うんまぁ、それも。……彼氏、いいヤツ?」 そっちか。 元カレに、今カレの話させるんですか。 なかなかにシュール。 「めちゃめちゃいい人。優しくて、朗らかで、穏やかで、誠実で、優しい人!」 「“優しい”2回言った!(笑)」 「大事なことなので(ドヤッ)」 「……結菜が、幸せそうで良かったよ…」 真面目な声に、少し胸が(うず)く。 わたしを幸せからどん底に叩き落としたのは、(まぎ)れもなくですけどね。 それももう、過去の話。 「うん、わたしいま幸せだから。修も、幸せにやってよ!」 「……おう!」 「じゃあね、お風呂入るし切るよ〜」 「うん、またな」 通話が切れるのを待たずに、先に受話器ボタンを押した。 『またな』? 『またな』なんて、 もう無いでしょ? 久しぶりに修と話した時間は、ちょっと楽しかったけどね。
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