112人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
Do not ask
「え、なに、大荷物!直接来たの!?」
土曜日の夕方、玄関を開けて皓の姿を見て驚いた。
出張先から直接来たらしい。
仕事用の鞄とボストンバッグと、紙袋をいくつも下げていた。
「ただいま!だってさぁ、保冷剤2時間ぐらいしかもたないって言うからさ〜、直接来た方が早いし、ほら会社で渡すと、結が今度荷物になっちゃうでしょ〜?」
キッチンの床にドサドサと荷物を置いて、紙袋を覗いてる。
「あ、ごめん、おかえり。言うの遅いね」
「いーのいーの、えっとねー、結のはー、あ、まずこれ!」
金目鯛の干物を渡される。でか!
「えーすごい大きい!美味しそう〜。一緒に食べようね」
「次はね〜、これ!」
わぁ、鰻!大好物!
「うーなーぎーーー!!」
小躍りせんばかりに喜んでしまう。
「あとねー、これ!」
え、まだあるの?
「なにー、ローストビーフ!?」
「“しずおか和牛の”ローストビーフ。美味しそうでしょ、名前が(笑)」
「すごーーい、ご馳走〜!」
「あとこれね、日本酒」
「わーこれ、聞いたことある!ありがとう〜」
っていうか、多い多い。もういいもういい。
ダイニングテーブルの上がいっぱいになった。
「結、お菓子じゃ喜ばないからさ、保冷剤が必要なのばっかりになった」
「すごいたくさん、ありがとう!重かったね〜」
よしよし、と皓の頭を撫でる。
もうこういうスキンシップも、いくらでも許されるようになった。
「まーさ、お土産って言うかさ、結局2人で食べるじゃん?」
「確かに」
ここに持ってきたということは、そういうことだ。
皓とわたし、2人で食べる分。
幸せだ。
「あーー、疲れた!帰りは少し軽いかな?」
リビングのテーブルの前に、ドサっと腰を下ろす皓。
「お疲れ様。会社戻らなくていいんでしょ?帰りは家まで車で送るよ」
「ほんと?やったぁー!」
お土産騒ぎがひと段落したので、お湯を沸かし始める。
「皓、コーヒー?玄米茶?」
「玄米茶!」
皓もすっかり玄米茶ファンになった。
「はーい」
お菓子を食べないわたしの家には、お茶請けがない。
お土産物の山を冷蔵庫に仕舞いながら、中を物色する。やっぱり無いな、甘いものは。
仕方がないので、おばあちゃんっぽいけど、漬物を小皿に盛り付けた。
「お待たせ〜」
とリビングのテーブルにお茶を運ぶと、
「うん、ありがと」
と皓。
あれ?なんか急にテンション落ちてない?
疲れたのかな…。漬物が気に入らない?
「ごめんね、お菓子とか無くて。でも疲れてる時、塩分も美味しいよ?」
言い訳してしまう。
「うん、美味しそう。いただきます」
ぽりぽりぽりぽりぽり………
漬物を噛む音だけが響く。
最初のコメントを投稿しよう!