転職

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転職

腹を決めてしまえば、あとはトントン拍子に話が進んだ。 退職願を出し、少し引き留められながらも受理され。 身辺の整理をし、引き継ぎをし…。 溜まりに溜まっていた有給休暇を消化して、3ヶ月後には円満に退社をした。 人間関係にはなんの問題もなかった職場。 希望に満ちた前向きな転職ではあるけれど、 送別会では、やはり寂しい気持ちになった。 少し赤い目をした美奈ちゃんとハグする。 一緒に飲みに行ったり食事に行ったりする仲だった。 美奈ちゃんには、公私共にお世話になったな。 もうこれで、修と彼女の仲良さげな姿を見ないで済む、という安堵の気持ちも大きい。 わたしも前を向いて、新しい日々を歩いて行く。 自分の足で。 送別会は企画課のメンバーで行われたので、 修とは会っていないけれど 最後に思い出すのはやっぱり修のことだった。 飲むことがわかっていたので、車では来ていない。 送別会でいただいた大きな花束を抱え、 暗い電車の窓に、修を思った。 大好きだった。本当に。 笑った顔も、怒った顔も、美味しそうに食べる顔も、時に甘えてくる顔も。 真剣な話も、くだらない話も、楽しい話も愚痴も。 たくさんたくさん話した。 こんな別れになってしまったけれど 背中を押してくれたのも修だった。 いつもいつも、何度も何度も。 途中で遮ることなく最後までわたしの話を聞いて、ストンと腑に落ちる言葉をくれる人だった。 修の言葉は、いつもわたしの心の欠落した穴に、ぴたりとハマるピースのようだった。 どれだけ励まされてきたことだろう。 きっとこの先も、何か落ち込むことがあったとき 修の顔を思い出すような そんな気がした。 未練がましいね。 とっくに別れているのに。 規則的な電車の揺れに、心の揺れがシンクロしているようだった。
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