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「ごめん…なさい」
職場の飲み会で、隣の席の同僚の女性が急に泣き出したら、佐藤さんがどれだけ困るかってことぐらいちゃんとわかっているのに
どうにも涙が止まらない。
「……うん。抜けようか」
佐藤さんが主催の久保田さんに何か耳打ちし、久保田さんがわたしを見て目を丸くした。
申し訳なさに頭を下げると、久保田さんはいつもの柔和な表情に戻り、小さく頷いて、みんなからは見えない下の方で手をひらひらさせた。
『帰っていいよ』の合図だと解釈して、目立たない様にこっそりと店を出る。
明日、精算して貰わなければ。
外に出ると、涙を堪えようと火照っていた頬に、冷たい空気が心地よかった。
後から出てきた佐藤さんが、「お茶でもご一緒しませんか?(笑)」と、ナンパの真似をして戯けてくれて、ふっ、と笑みが漏れた。
近くのカフェで各々注文して、奥まった席に腰掛けた。
「なにがあったの?」
早速聞いてきた佐藤さんに口籠る。
何を、どこからどこまでなら話していいんだろう。
「多分、伊佐さん誤解してて…」
「うんうん」
穏やかに聞いてくれる佐藤さんに、
「伊佐さんの出張だった日に、他の男の人と逢ってたと思われて……ます、きっと」
「うんうん」
電話がかかってきて相談に乗ったこと、その翌日にお礼のLINEが来て、多分皓がそのポップアップを見て誤解しているだろうことを話した。
「出張の日って金曜日だよね……で、土曜日にポップアップを見て……3日間も、何ごねてんだあいつ」
「ううん……伊佐さんは悪くないんです……。男の人からのLINEで、“結菜”って呼びかけから始まってたら、気分悪いと思います……」
「あー………元カレ、とか?」
「はい……だから、わたしが悪かったんです…」
心配そうにわたしを見つめる佐藤さんに、
わたしはハッキリと伝えた。
「わたし、自分でちゃんと誤解ときます。大丈夫ですから」
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