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皓は怪訝な顔をわたしに向けたけど、そのまままた席に着いた。わたしも再び席に着く。
なんだろう?
「ここからはちょっと…お気に障るでしょうけど、昔の呼び方で呼ばせてもらいます。
結菜……」
皓の目の前で“結菜”呼びは気まずい。
けど早く終わらせたくて、
「……なに?」
と先を促した。
「何度も言おうと思ってたんだけど、俺、笠間さんとは別れてる」
「えっ!?」
美奈ちゃんからも何も聞いてない。ということは、美奈ちゃんも知らないのだろう。
修は少し身を乗り出すように、テーブルに両肘をついて続けた。
「笠間さんさ、俺と付き合い始めてから、すげー結菜の悪口言ってきて。それがすげーイヤで。だって、嘘ばっかり言うんだもんよ。
それで何回も喧嘩になって。なんでそんなことばっか言うんだよ、って。そしたら嫉妬だったわ。俺と結菜が前に付き合ってたこと知ってた。知ってて、不安で、結菜を貶めることばっか言ってたんだって」
いないところで悪口を言われるのは、確かに気分が良くない。ましてやそれが事実無根なのであれば尚更。
「他のことで喧嘩しても必ず結菜の話になる。『森田さんの方が良かったとか思ってるんでしょ!』って言われる。でも言われて、なるほど、って思ったんだ俺」
ちょっと思いがけない雲行き。
思わず、テーブルの下で皓の手を握った。
「俺も悪かったんだけどさ…結菜の好物、間違えて笠間さんに渡したり…もう、すげー荒れたわ」
あっ、イカか。イカだな。
「そんなのの繰り返しで、疲れちゃってさ。夏の終わりには別れてた」
じゃあ…修の誕生日の前日に、わたしに逢いに来た時にはもう既に別れてたのか。
だから、あんな……。
「でも、笠間さんの言うことも図星でさ。俺…結局、結菜のこと忘れられなかった」
テーブルの下で握った皓の手が
ギュッと握り返された。
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