転職

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もうそろそろ最寄駅に着く、という頃。 バッグの中で、スマホが震えた気がした。 花束を抱え、両手の自由が利きにくかったので、 家に着いてから確認しようと思った。 こんな時間に呼び出してくる"彼氏"もいないし。 自虐的にそんなことを思い1人で自分の不甲斐なさを“ふっ"と笑うと、家路を急いだ。 一人暮らしの家に帰ってお風呂に浸かり、新卒以来お世話になっていた朝倉企画のことに想いを()せる。 社会人の心得も、仕事のやり方も、全てここで教わった。 本当はもっとずっと、長く勤めるつもりでいた。 ふと震えていたスマホのことを思い出し、お風呂から上がってスマホをバッグから取り出すと、何件かの“お疲れ様LINE”の中に え……修の名前…? 修からLINEが来るなんて、別れて以来だ。 『長い間、お疲れ様でした。 森田さんならきっと、どこに行ってもやっていけると信じてる。 新しい会社でも頑張れ』 今日いちにち、ずっと堪えていた涙が(せき)を切ったように溢れてしまった。 修、修………。 本当の本当に、これでもうお別れなんだ。 もう逢うこともないんだろう。 励ましの言葉であり、訣別の言葉だ。 森田さん、か……。 まだ呼ばれ慣れないな。 別れてから3ヶ月以上経つのに、笑っちゃう。 “結菜!”って呼ぶ声が、顔が、懐かしく頭に浮かぶ。 『ありがとう! 宮崎さんも、頑張ってね!』 考えあぐねて、1時間以上も打っては消し、打っては消し、結局定型文のような文章しか送れなかった。 タオルを巻いた枕に突っ伏して、声が出ないように泣いた。 いつもこうして、絶妙なタイミングで絶妙な言葉をかけてくれる。。。 わたしこの先、もう誰のことも 修以上には好きになれない気がするよ。。。 でも… さようなら…。 はい、結菜! ここからは這い上がるだけだよ! どん底はもう経験した。 あとは、這い上がるだけ。 修からの返信は、無かった。
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