プロローグ

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失恋したって、新しい日はやってくる。 失恋したって、いつものルーティンで仕事に行く。 失恋(ごと)きで、仕事を休むようなわたしではない。 大人なんだから。 止まらない涙に、メイクがなかなか進まなかったけれど それでも出勤時間はやってくる。 やっとの思いで済ませたメイクを もう崩すわけにはいかない。 女子力の低いわたしは、メイク道具なんてパウダーと口紅ぐらいしか持ち歩いていない。 マスカラが落ちでもしたら、目も当てられない。 ……なんで一式持ってこなかったかな。 せめて今日ぐらい。 Bluetoothで繋がれた車のオーディオから、 危うく”失恋"ソングが流れかける。 走り出す前に気づいてよかった。 聞き慣れたプレイリストにかけ直した。 それでも、かかる曲ひとつひとつに思い出が脳裏に浮かぶ。 あの日の表情。 あの日の言葉。 信号で停まる度に、ハンドルに両肘を乗せて顔を(うず)めそうになる。 危ない危ない、今日はもう泣くわけにはいかない。 どん底に落ちるのは、家に着いてからじゃないと。 オーディオをOFFにして 車内は静寂に包まれた。 それもまた、落ち着かない。 歌詞を頭の中で追う作業が無くなり 余計なことばかりを考えてしまう。 ……いったいどうすりゃいいの。
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