112人が本棚に入れています
本棚に追加
/122ページ
久保田さんと伊佐さんの会話はあまりよく聞こえなかった。
たまに「や、でも!」とか「みんなわたしに押し付けて!」という久保田さんのやり切れないような声は聞こえたけど、伊佐さんが宥めているようだった。
気づけば久保田さんのスマホも伊佐さんがさりげなく取り上げていた。
上手い。この場で彼女に電話するという、最悪の展開は免れている。
かろうじて聞こえた「み〜んな久保田さんのこと頼りにしてるんだねぇ〜」というほんわかしたいつもの伊佐さんの声。
最終的には久保田さんが「みんな〜ごめんねぇ〜、空気悪くしちゃった!」と、少し赤みを帯びた目でみんなに謝った。
「いやいや、大丈夫だよねぇ〜」
にこにこと、久保田さんの肩をポンポン、と優しく叩く伊佐さん。
「それよりもさぁ〜、俺まだパンツまでびっちゃびっちゃ!!」と伊佐さん。
「なんでだよ、漏らしたのか」笑いながら佐藤さんが突っ込む。
「昼間の汗だよ〜、すごいね、ここのところの暑さ!!」
すごい、丸くおさめちゃった。
伊佐さんの朗らかで優しい空気は、やっぱり周りの人間を癒すし、
戯けて雰囲気を変える。明るくする。
伊佐さんってすごいな。わたしもあのスキル欲しい。
怒っている人がいても、嘆いている人がいても、
あの独特の空気で大きく丸くおさめてしまう。
誰も嫌な気持ちにさせない。
そのスキルがあれば…
わたしもあの時の修のこと慰めてあげられてたのかな。
いやそもそも、山田課長と揉めてたことすらも知らなかったわたしには無理だったか。
というか、未だになんだかんだと修のことを思い出す自分もどーなのよ。
早よ諦めなはれ。
その後は和やかに飲んでお開きとなり、
駅のホームで1人、帰りの電車を待つ。
気づくと、隣に伊佐さんが立っていた。
最初のコメントを投稿しよう!