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「“新入社員”でいいじゃない」 「あ…そっか。そうですね。ペーペーって(笑)」 自分で言った言葉なのに可笑しくなって笑った。 「“下っ端”ってのも、なんかチンピラみたい」 「えーー?普通に使いますよ、“下っ端”は!」 ムキになってしまう。 でもやっぱり可笑しい。 「さて!」 と、伊佐さんが大きい声を出したと思ったら、停車した電車からグイグイ降ろされた。 直接身体に触らないようにか、鞄で押されて。 あ、最寄駅……。 伊佐さんも当たり前のように一緒に改札を出て、また言った。「さて!」 今度はなんだ? キョトンとするわたしに、伊佐さんが聞いた。 「家まで徒歩何分?」 「えっと、5分ぐらいです」 「分かった、じゃー今からかけるから」 「??」 伊佐さんは取り出したスマホで目の前のわたしに電話をかけた。 耳に当てるように手のひらを上に向けて合図する。 「……はい、もしもし?(笑)」 「このままおうちに帰りなさい。通話したまんまだよ。何かあったら、すぐに行くから」 ……わたしの心の中ってスケルトンですか。 家まで送ってくれそうな伊佐さんに、実はちょっと、自宅を知られたくない気持ちもあった。 でも、きっと心配して送ってくださってるのに、ここであまり固辞するのも角がたつかな?とか考えてた。 「ありがとうございます…」 深々とお辞儀をして、くるりと背を向け歩き出す。 「もう5分だけ、くだらない話しに付き合ってよ、ペーペーくん!」 「あはは、もうやめてくださいよ〜」 振り向くと、スマホを耳に当てた伊佐さんが、ひらひらと手を振っていた。 暗い夜道も怖くない。 朗らかで、優しくて、今日またもうひとつ “誠実だな”という印象が加わった。
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