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仕事を終えて美奈ちゃんとの待ち合わせに急いでいると、エントランスで帰社したばかりの伊佐さんに会った。
「あ、お疲れ様です。お先に失礼します」
そう言って通り過ぎようとすると、「今日、行かない?」と飲む仕草をされた。
「あーごめんなさい、今日は先約が……」
「あ、そうなの。じゃあ、またね〜!いってらっしゃい」
と送り出された。
あれ?今の。
いつもの企画営業部のみんなで、『今日行くか〜』の感じじゃなかった。
もしかして、2人で?
いや、伊佐さんと2人だけで飲んだことはまだ無い。
飲みたい気分だったのかな…。何かあったのかな。
少し気になったけど、美奈ちゃんとの待ち合わせ場所に急いだ。
美奈ちゃんと食事をするときは、美奈ちゃんがうちの会社の近くに来てくれることが多い。
美奈ちゃんはアシスタントだから退社も早めだし、
ZAXは駅近だから。
今日はチェーンの居酒屋。
普段は割り勘かわたしが払うけど、誕生日の今日は美奈ちゃんが奢ってくれると言って聞かないので、安心価格のこのお店にした。
「お誕生日おめでとうございまーす!」と乾杯。
「ちょ、声が大きい、恥ずかしい」
「いーじゃないですかー、お祝いごとなんだから」
そうなんだけど……いい歳して、誕生日を女性同士でチェーンの居酒屋で祝ってるのは、ちょっといただけない状況ではある。
「今日ね、朝一、宮崎さんと少し話したんですよ」
ぶっ。生ビールを吹きそうになった。
今日はいきなり、だな。
「あ、そうなの?元気にしてる?」
社交辞令的な返事。
「だとは思いますけど…今日はね、珍しく宮崎さんから声かけられて」
「へぇ〜、なんだって?」
「『森田さんとまだ飲み行ったりしてんの?』って」
ぶふっ。また吹きそうになった。
ちょ、置こう。とりあえず一旦ジョッキ置こう。
「『行ってますよ〜、月1ぐらいで』って答えたら、『そうなんだ、元気にしてる?』って言うんで、『元気ですよ〜、一緒に飲みに行けて羨ましいんでしょ!』って自慢しときました(笑)そしたら、ちょっと驚いたような顔してから、『いいな』って笑ってましたよ。結菜さんも宮崎さんも、おんなじこと言う〜って、今思いました。“元気にしてる?”ってやつね(笑)」
「……へぇ〜……あ、多分、今日わたしの誕生日だから久々に思い出した?的な?」
“朝一”と言うからには、多分わたしへLINEを送った直前か直後ぐらいだったんだろう。
そこへたまたま、美奈ちゃんが通りかかったのかな。
「だからって、そんなに面識のない違う課のアシスタントに、わざわざ朝一で声かけますかね??」
ニヤニヤしてる美奈ちゃん。
なんとも言えずに俯くわたし。
「今日はね、もちろんお祝いもありますけど、これを早く話したくて。気にしてるんじゃないですかねー?結菜さんのこと」
まるで、わたしの心の声を読んでるかのように、美奈ちゃんが言った。
本当にそうだったら、どれだけいいか……。
なんて、言えないけど。
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