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これはもう一度、ゆっくりと話す時間を設けるべきだと思った。
伊佐さんの話も聞きたいし、わたし…そう、わたし自身の話も、すべきだろう。
誠実な伊佐さんに対する、これはわたしの誠意。
そして、急がなければならない理由も、わたしにはあった。
金曜日の仕事終わり、伊佐さんを誘う。
「今日?いいよ。お酒は、アリ?ナシ?」
「ちょっと…ちゃんとお話ししたいので、今日はナシで」
「……うん、わかった。じゃあ、カフェにしようか。お腹空いてるんなら食事でもいいけど」
いや多分、こんな複雑な話をしながらでは、箸が進まない気がする。
前回のコーヒーショップだって、すっかり冷めた飲みかけのカフェオレを、テイクアウトしたんだもの。
「カフェで、お願いします」
「了解、今片付けるからちょっと待ってね」
バサバサと書類をまとめ始める伊佐さんに
「あ、急がなくていいです。わたし先に行って待ってますから」と告げると
「そう?じゃ、待ってて」
と微笑まれた。
ひと足先にカフェに着きオーダーをして、奥まった席に陣取る。
カフェオレを少し飲んで、何から話すべきか、何から聞くべきか考えていた。
わたしは伊佐さんに好意は持っている。間違いなく。
ただそれが、異性に対するものなのか、人としてのものなのか、判断がつきかねていた。
ただひとつ確かなのは、異性に対するものだとしても
一番ではない、ということ。
わたしの心の一番のところに、我が物顔で住み着いている男がまだいるのだ。
伊佐さんの求めるわたしとの関係が、“恋人ではない”と言うのであれば、そんなことは問題ないのだろう。
だけど伊佐さんは、『好きになってくれるとしたら、これ以上ない喜び』だと言った。
そう思ってくれているのなら、他の人を想いながら
伊佐さんと一緒にいるのは、とても失礼なことだ。
とにかくもう少しよく話をしてみなければ……。わたしには今日中に、考えをまとめてしまいたい“理由”がある……。
そう考えていると、スマホが長めに震えた。
着信だ。伊佐さんかな?と思って画面を見て
一瞬思考が停止した。
誕生日に経験した、“ぶわっと全身の体温が上がった”感覚を、感じながら。
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