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“宮崎修哉”
画面にはそう表示されていた。
奥まった席で、周りに他のお客様は居ない。
無意識に胸元に手を当て、ふーっと息を吐き
束の間の躊躇の後、震える指で通話ボタンを押した。
「……もしもし?」
「あーー……俺」
修だ。
変なとこ押しちゃったとか、何かの間違いではなく、
修がわたしに電話してきたんだ。
「…うん。久しぶり」
「おぅ、久しぶり。なぁ、メシ食った?」
目の前の椅子が引かれた。
伊佐さんが到着したのだ。
なんて返事をすればいいのかも、伊佐さんになんて伝えればいいのかも、この後わたしはどうすればいいのかも、何も考えがまとまらないままに、伊佐さんの顔を見上げた。
座りかけていた伊佐さんは、わたしの表情を見て一瞬目を見開き、それから少し寂しげににっこり笑って『いいよ』と唇だけで言って再びにっこり笑い
手を小さく振って、帰ってしまった。
わたし、そんなに顔に出てた?
ってか、どんな顔してた?
縋るような顔をしてしまったかもしれない。
「………まだ」
かろうじてそれだけを答えた。
思いがけないことで、混乱がすごい。
聞かれたことに短く答えることしかできない。
「どこいる?」
「会社の…ZAXの近く」
「おぅ、近くにいるんだよ。メシ、行ける?」
「…行ける」
行けてしまう。
伊佐さんは帰ってしまった。
わたしの予定は無くなった。
……行けてしまう。
行けてしまうのだ。
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