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修との時間
「まずは生ビールでしょ?俺は〜、うん、俺も最初は生ビールにしよう。ツマミは?何にする?」
なんか普通に、ものすごく普通にメニューを渡されて、修は注文呼び出しのボタンを押している。
「わたし、餃子食べたい」
平常心を装い、わたしも普通に言ってみた。
「はいよ〜。生ビール大ひとつと、中ひとつ。餃子1枚。とりあえず以上で!」
頼む声も、前と何も変わらない。
まるで何事もなかったかのように。
店員さんが半個室のカーテンを下ろして出て行ったのを見て、
「今日は?どうしたの?」
と聞いてみる。普通に、普通に。
「今日こっち仕事で来てさ。直帰OKだったから。腹減ったな〜と思ってさ」
「修、1人で飲食店入るの嫌いだもんね」
普通に、普通に、と思うがあまり、つい前の呼び名で呼んでしまったけど……コレはアウトかセーフか…?
「そうそう、そうなんだよ。で、結菜近いな〜って思ってさ」
……セーフなのらしい。名前呼びで返されたわ。
「そっかそっか。修はなに食べる?」
餃子を頼んだわたしは、修にメニューを戻した。
「んーーとーー、芋もち、とー、うーんサイコロステーキとー、あっ結菜、ワタ焼きと南蛮漬けどっちにする?イカ」
「……イカですか(笑)」
「なんだよ、好きだったろ?」
「……南蛮漬け」
「オッケー」
どんだけイカ好きキャラになってるのわたし。
生ビールとお通しと、餃子用の小皿が届いたのでそのタイミングで追加注文する。
案の定、修の前に生ビール大、わたしの前に生中が置かれた。
「これも毎回お馴染み(笑)」
と修が笑って
店員さんが出て行ってから、お互いのビールを交換した。
確かに、背の高い修と中肉中背のわたし。お馴染みの店以外では、ビールのサイズをいつも間違えられていた。
「おつかれ〜い」
「お疲れ様〜」
喉を鳴らして生ビール(大)を呷る。
いつもの100倍美味しい気がする。
修が、わたしの餃子用の小皿に、辣油と黒胡椒を入れてくれた。
わたしは修の小皿に、お酢と黒胡椒を入れる。
分かりきってるからの、やり取り。
「ありがと」
修は、わたしを見てニコニコしている。
そのニコニコを崩したくなくて、わたしはなにも聞かないことにした。
今は、1分1秒でも長く
この嬉しくて幸せで楽しい懐かしい時間を満喫したかった。
この後また、嫌な話があるのかもしれない。
でも、今は、修はご機嫌に笑っている。
後でいいなら、先送りにしたかった。
修が何か切り出すまで、わたしは、普通に普通にしてよう。
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