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お互いが程良く酔って、懐かしい話に花が咲く。
楽しかった話ばかりを、2人とも無意識にチョイスしているようだった。
核心にも触れない。
ある女性の固有名詞も出さない。
「この前さ、原口に自慢されちゃって」
あ、それ美奈ちゃんから聞いたわ。
「『一緒に飲みに行けて羨ましいんでしょ』って言われちゃったよ」
「ふ。それでなんて答えたの?」
知ってるけどわざと聞いてみる。
「『いいな』って言ったよ、俺。ほんとに“いいな”って思ったもん」
少し、返事に詰まる。
「……でしょ〜!?わたしと飲むの楽しいんだから!!本当なら予約待ちよ?」
2人でゲラゲラ笑う。
「あっねぇ、今日、車?」
2人ともお酒を飲んでしまっている。
「うん、代行呼ぶ」
「そっか、でもさぁ、この辺のパーキング高いよね〜」
「そーなんだよ、高いよなー!だから、少し離れたパーキングに停めて、歩いてきた。就業時間内は、経費で出るし」
ちゃっかりしてる(笑)
「結菜は?」
「わたしは最近、ほとんど電車通勤。今日も。車で来るのは、悪天候のときぐらいかな。それこそ駐車料金高くてさ」
「せっかく車あるのにな。もったいねーな」
「うん。日曜日に1週間分可愛がってるよ」
バッテリー上がったら大変だもん。
頼んだおつまみは、もうほとんど食べ尽くしていた。そろそろお開きにした方がいいのかな…。
「ねぇ、駐車場代考えたら早めに帰った方がいい?そろそろ代行呼ぶ?」
「いや……もうちょっと……そーだ、カラオケ行こう、カラオケ!」
「いやわたしはいいけど、大丈夫…なの?」
自慢ではないが、お酒はわたしの方が強い。
修は途中から緑茶ハイに切り替えていたけれど、それでもいつもより進んでいるように感じた。
「大丈夫大丈夫、明日は土曜日〜!ほら、行こ!」
と、伝票を持って立ち上がられてしまった。
これはもう、大人しく着いていくしかない。のか。
わたしは嬉しいけど、本当にいいのだろうか。
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