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飲み物を注文用端末で頼むと、
修は早速電モクを手に取って選曲を始めた。
わざとなのかどうかは知らないが、わたしの聞いたことのある歌ばかり歌う。
イントロが流れただけで、あぁ、とわかる。
「あー、懐かしいー!よく歌ってたねこれ」
「懐かしいだろー」
カラオケに来て良かった。懐かしいし楽しいし、さっきより随分とくだけた空気になった気がする。
「結菜、あれ歌って」
と、修からのリクエストが入れられる。
「あーこれ久しぶりに歌うわー」
2人でよくカラオケに行っていた頃の歌を、避けて歌わなくなっていた。
その後はもう、競い合うようにどんどん“あの頃”の懐かしい曲を入れた。
2人で一緒に歌っていた、デュエット曲まで。
「お腹はもういっぱいだけど、飲み物しか頼まないってのも目が寂しい」
と修が言って頼んだ、スナック盛り合わせ。
ポテトチップスやピスタチオ、それにひねり揚げが入っていた。
「えー懐かしい!これ好きだったな〜、最近食べてないや」
とひとつ咥えると、マイクを握っている修が間奏中に振り返り、“あーん”と口を開けたので、ひとつ放り込んであげた。
「俺もこれ好き」
当たり前のようにバリバリ噛む修。
「うま」
「ね」
懐かしい空気感。
距離感おかしくなってきた、のは気づいてた。
でも楽しい気持ちが優先されてしまって、“酔ってるせいだ”と誤魔化した。
わたし達の関係性が戻ったわけではない。
今だけ、今日だけ。
そう、酔ってるだけ。
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